luanne -思春期女子学生に向けた月経教育パッケージ-

 このコラムの執筆者:瀧澤春妃

概要

卒業研究にて、思春期の女子学生に向けた実際に起こりうる「悩み」と抱えうる「疑問」から学ぶ月経教育パッケージを製作しました。

▲ 卒業研究展で展示したパネル

 

作品紹介

 

使用フロー

使用フローとしては2つに分けており、1つ目は授業中に月経についてゲーム的に遊びながら興味を持ってもらい知識を得ること、2つ目は授業後に人には言えない悩みなどを月経カウンセラーを通して匿名で相談できる場所を提供し悩み相談の継続に繋がる仕組みを考えました。

▲ ボードゲームを行う前に見る説明動画

 

パッケージ内容について:ボードゲーム・リーフレット・タブレット 

▲ 最後のQRコードを読み込むと、解説画面へ飛ぶ仕組み


背景:十分な知識がないために悩みの対処法を知らない

 女性の多くは自身の身体について悩んだ経験があり、それに対して適切な対処ができない場合があります。その理由として教育不足が挙げられます。また、中学生くらいの早い時期に情報が欲しかったと振り返る声も多く、中等教育以下では、月経教育を実施しているにも関わらず、女性特有の健康問題・病気・病院のかかり方などについて学ぶ機会は少ないのです。
 初経を迎える一般的な年齢は10~14 歳と言われているのにも関わらず、そのタイミングで行われる月経教育は必ずしもその後の継続した知識やセルフケアに繋がっていない現状があり、月経教育に対して(生徒の1/3 は満足しておらず)月経痛の知識・対処法などの教育の不十分さを感じていると報告があります。

\月経には痛みがつきものだと思っていませんか?月経痛は当たり前ではありません!/

 

 

目的:身も心も変化し始める思春期の女子学生に、月経を軸とした女性特有の知識を身に付けてもらうための月経教育パッケージを製作する

 

 

調査:どのようなアプローチができるか着眼点を見つけるために、月経教育に関連する文献調査と情報収集をしました。結果を以下に記します。(各図あり)

 

01.小学校高学年から中学生の早い時期に知識をつけたかった

 10代から20代の女性(10 名)を対象に、女性の体に関する知識ついて知っておきたかったこと・それに対して知りたかった時期についてのアンケートを行ったところ、人それぞれ悩みは違うが、小学校高学年から中学生のあいだに知りたかったという声が多数見られ、一部では、全員が初経を迎える前という声もありました。

02.自分と関係ない月経の悩みは他人事になってしまう  

 小学6年生(11)女子に、月経のことと月経教育に対してヒアリングを行いました。(小学4年生に月経教育を受けている)その中でも、月経についての情報を知るタイミングがあっても自分ごと化できず、自分が体験したことのない悩みを理解しようとする意識がないのではないかと考えました。

03.インターネットなどの誤った情報に流されやすい

 オープンに話すことのできない話題は、インターネットなどの情報に頼りがちになってしまい、あらゆる情報を気軽に知ることができますが、誰もが発信者になれることから誤った情報が拡散されることも少なくないです。 右下の図では、問いに対する回答のなかで、生理痛は人それぞれであるということはわかりますが、異常が無いことは本当に正しいかわからないため、あくまで回答者の体験・思考であることが分かります。

 

考察:悩みを持つ前から自分ごと化して正しく知識を持てるようになる必要がある

 一般的に月経について悩む人は多いのにもかかわらず、知識が無いため、症状があっても異常と思わなかったり我慢してしまうため、何らかの症状が起きる前にあらかじめ知識に付ける必要があります。また、正しい情報を提示しても、そこから知識を得ようと自ら行動する人は少ないのです。そこで、悩みを持つ前から正しく知識を持てるようになるツールが必要ではないかと考えました。

\現状として、月経教育は行われているが学校教育の中で完結してしまう。日常で継続的に月経について正しい情報を得られるしくみがほしい!/

  

パッケージ製作過程

01.ラーニングピラミッドで学習方法を考える
 ラーニングピラミッドとは、どんな学習方法がしっかり頭に残るかを分類してピラミッド型の図にまとめたものであり、アメリカ国立訓練研究所が発表した研究結果で、7 つの学習方法を学習の定着率順に並べています。

 グループディスカッションや実演などを通して、自ら考えて行動する能動性を鍛えられるため、通常の授業形態(一方的に講義を聞く・読む)より知識が身につきやすいと考えました。

 

02.ボードゲーム製作のプロセス
 自ら参加する意欲を高めるためのツールとしてボードゲームが最適だと考えました。疑似体験をして考えながら自ら理解しようとする意識を持たせ、他人の悩みや問題の意見(個人差) を理解するきっかけを与えることができます。


・ボードゲームの内容整理
 初経が始まってから起こる身体の変化や症状をまとめ、それについて実際にある悩みや疑問をアンケートなどから具体的に書き出しました。大まかに出血、生理痛、おりもの、月経不順、PMS(月経前症候群)に分類し、整理しています。

・プロトタイプ製作
 成長していく過程でどんな体の悩みを抱えるのか、実際にある(悩みの経験者たちの) 声から、「問い」「クイズ」などひとりひとりのマスに対してみんなで話し合う要素を取り入れ、人生ゲームのようなゲーム形式でプロトタイプを製作しました。その都度、研究室内の同期からフィードバックを頂き、ブラッシュアップを何度も重ねました。下図を見てもらえると、紆余曲折を経て完成形ができたことがわかると思います(笑)

・プロトタイプ検証
 研究室内の女子4人で“ 実際に女子中学生の気持ちでプロトタイプを使用してもらいどう感じるのか” を目的として検証をしました。結果として「マスの悩みが問いかけなら答えられそう」「自分の意見を言うことが恥ずかしいから会話の展開が難しそう」「学校の授業でiPad 使うのワクワクする」などの意見を貰うことができ、自ら話すことの恥ずかしさを軽減し話し合えるような工夫が必要だということが分かり、改善を経て完成形に辿りつきました。

 

感想・学んだこと

 ターゲットとしていた思春期女子学生のプロトタイプ検証が、コロナウイルスの関係上とデリケートな内容のため実施できず、どうしたらよいかわからなくなってしまった時期がありました。 ですが、くよくよせずにまずはやれることをやる!と決意し、研究室内の女子学生を集めて、計画していたプロトタイプ検証を実施したところ、ターゲットは違くても、今まで思いつかなかったような発見や改善策がどんどん見えるようになり、研究に対する意欲も大きく湧いてきました。この経験をしたことで、思うように物事が進まないときや、壁にぶつかったときは、まずやれることはないかということを考えて取り組むと問題は解決できるようになるのだと自信がつきました。
 検証を終えて、「婦人科行ってみるね!」と、積極的に月経についての悩みや情報共有をしてくれるようになり、誰かの行動を起こすアクションになれたと実感しました。とても嬉しかったのを覚えています。保健の先生になった気分でした。

いつか実際に思春期女子学生に向けて実施できるとイイナ・・・

 

後輩へのアドバイス

 中間発表まで別のテーマを扱っていましたが、なかなか身が入らず、先が見えなくなっていた時期がありました。夏休みに自身の経験を振り返って、違和感を感じていた[月経教育]へガラッとテーマを変えて取り組み、ここまでやり遂げることができました。経験したことや自分ごととして考えられるということは、研究においてもモチベーションが上がり、自身の意見もしっかりと生まれてきます。もし、テーマ選定で迷っていたら、是非自分の経験から感じた違和感や身近な疑問を卒業研究を通して突き止めてみてください。応援しています!

 

外部リンク

websitehttps://luanne-girl.studio.site/

グッドデザインニューホープ賞に仕組みのデザインとして受賞しました。
https://newhope.g-mark.org/award/22NHA040007.html

(表彰状や受賞者向けプログラムなどなど招待してもらえます。)